いや、でも、黛これないと困るんじゃ……。あげるよ。でも、もらうわけにはいかないよ。あげるよ。……まさか、全部、暗記、してるの? コピーしてるから、あげる。コピーって……、紙、無駄にさせた……。いい、あげる。じゃ、じゃあ、そのコピー用紙の方でいいから。こっち、原物みたいだし。原物じゃないよ、あげる。え、や、どう見ても原物……。瀬那。あ、え、まゆず……。俺の言うこと聞いて。……あ、え、と。聞いて。……あの。それ、あげる。あ、の、いた、い……。瀬那のだから。瀬那の、だから。……あ、う、ん、ごめん、分かった、から。瀬那のだよ。……まゆずみ、はなして。それはもう瀬那のもの。……まゆずみ。俺のものは瀬那のものでもあるんだよ。……いたい。狼狽えて痛がってる瀬那も可愛いね。……はなして。俺だけの瀬那。俺だけのオメガ。……。

 あげると言われて素直に受け取ろうとしなかった俺を無理やり従わせるように、黛は、上手くキャッチボールができていないように思える会話の最中にさりげなく俺の手首を掴んで軋ませてきたのだった。感触で包帯の存在がバレてしまうんじゃないかと冷や冷やしたが、それよりも、手首に走る痛みの方が強く、早く解放されたい一心でこくこくと頷き、その場は彼の要望を呑むしかなかった。平気で首を絞めてくる人だ。あまり反論しすぎると何をされるか分かったもんじゃない。

 血液の流れを悪くさせるような力で掴まれた手首には、まだ少し痛みが残っていた。机の下で押さえ、依然として、あげると半ば強制的に受け取らされた、絶対にコピー用紙ではない原物のルーズリーフを見下ろす。片端にはその紙特有の穴がしっかりと開いていた。これで原物じゃないと堂々と嘘を吐くなんてどういうつもりなのだろう。コピーしてると言ったことも、なんだか怪しく思えてきてしまった。