先程まで痕が残りそうなほどの力で首を絞め上げていたのに、今は恐ろしいほど優しい手つきで触れてくるその手に体が震えた。依然として息が整わず、苦しみ喘ぐ俺に何の手助けも施してくれない黛は、寧ろそんな俺を見て高揚するように、苦しそうな瀬那はやっぱり可愛いね、と俺を自分の胸に引き寄せて愛おしそうに頭を撫でるのだった。

 抵抗したくても、できない。動けない。制服と素肌の間に巻いている包帯が、そんなはずもないのに俺を拘束しているような錯覚に陥った。息が苦しくて、そっちに意識が持っていかれてしまう。

「瀬那、今日の放課後、生徒会室においで」

 黛の胸の中で、長引く息苦しさに喉をヒューヒューと鳴らして心臓を暴れさせる俺は、後頭部から項にかけて手を滑らせながらそう口にする黛の誘いに、うんともすんとも言えなかった。そんな余裕はなかった。思考が滞り、喋ることすらままならなくて。ただ、ひたすら、苦しいだけの時間が続いた。

 結局黛は、俺のした問いかけに何一つ答えてくれないまま、流れるように主導権を握っていて。自分に向けられた質問や疑問に曖昧に答えるでもなく、下手に話を逸らすでもなく、まるで何事もなかったかのように、それこそ俺の言葉なんて最初から聞こえていなかったかのように、完全スルーしたのだ。全く成立しない会話と脈絡のない言動に、普通の人とは違う狂気じみた何かを感じずにはいられなかった。