挙動不審なまま、トイレに体を滑り込ませた俺は、急いでカバンから抑制剤と水を取り出し、早鐘を打つ心臓を落ち着かせるように薬を飲み下した。濡れた口元を拭い、ふと鏡に映る自分に目を向けると、初めて発情期を迎えた日に黛に迫られた記憶が脳内を駆け抜ける。舌や喉、首が、当時の感覚を蘇らせるように熱くなると同時に、喉を突かれ首を絞められるあの感覚も一緒に目を覚ましてしまった。息苦しさすら覚え、思わず顔を顰める。指先で喉に触れながら、当時の黛の行動の意味を考えてみたが、やっぱり理解することはできなかった。黛は、何を考えているのか分からない。
その黛に、良く言えばミステリアスで、悪く言えば不気味な黛に、俺はカバンに畳んで入れているタオルを返そうと、トイレを出て彼を探すことにした。が、手始めに教室を覗けば探す必要もなく黛はそこにいて。しかも、わざとなのか何なのか、彼は俺の席に座っていた。目を見張る。一体何をしているのか。どこを見ているのか。何を考えているのか。ますます彼のことが分からなくなる。
たった一人、自分の席ではなく他人の席について教室を占領している黛は、何をするでもなく無表情のまま、ただそこに大人しく座っているだけだった。ごくりと唾を飲む。間違って座っているわけでもなさそうな、寧ろ俺の席だと分かっているから座っているような、そんな黛の醸し出す気味の悪いダークな雰囲気に緊張が走り、俺は教室を覗くように廊下に突っ立ったまま、しばらくその場から動けなかった。黛の姿を見て、体が萎縮している。黛には一度、首を絞められ殺されかけているのだ。にも関わらず、発情期に酷く魘されていた間、俺は黛のことを求めてしまっていた。理性では黛を恐れ、本能では黛を欲しがっているだなんて、心が二つに枝分かれしてしまったみたいで上手く処理ができない。それでも今は、理性の方が勝っている。正しい。こっちが俺の、黛に対する正しい感情だ。正しい体の、心の反応だ。黛を欲したのは、発情期でおかしくなっていただけだ。
その黛に、良く言えばミステリアスで、悪く言えば不気味な黛に、俺はカバンに畳んで入れているタオルを返そうと、トイレを出て彼を探すことにした。が、手始めに教室を覗けば探す必要もなく黛はそこにいて。しかも、わざとなのか何なのか、彼は俺の席に座っていた。目を見張る。一体何をしているのか。どこを見ているのか。何を考えているのか。ますます彼のことが分からなくなる。
たった一人、自分の席ではなく他人の席について教室を占領している黛は、何をするでもなく無表情のまま、ただそこに大人しく座っているだけだった。ごくりと唾を飲む。間違って座っているわけでもなさそうな、寧ろ俺の席だと分かっているから座っているような、そんな黛の醸し出す気味の悪いダークな雰囲気に緊張が走り、俺は教室を覗くように廊下に突っ立ったまま、しばらくその場から動けなかった。黛の姿を見て、体が萎縮している。黛には一度、首を絞められ殺されかけているのだ。にも関わらず、発情期に酷く魘されていた間、俺は黛のことを求めてしまっていた。理性では黛を恐れ、本能では黛を欲しがっているだなんて、心が二つに枝分かれしてしまったみたいで上手く処理ができない。それでも今は、理性の方が勝っている。正しい。こっちが俺の、黛に対する正しい感情だ。正しい体の、心の反応だ。黛を欲したのは、発情期でおかしくなっていただけだ。



