自分が何をしたいのかも、何をすればいいのかも、分からなくなっていた。ただ、ただ、死にたい気持ちだけがむくむくと膨れ上がり、俺は自分で自分を傷つけることを自分自身で催促していた。

 手首の感覚が麻痺するほど顎を酷使し続ける。頬を伝う涙が垂れる唾液と混ざり合った時、鼻腔がある匂いを嗅ぎ取った。その瞬間、ピク、と指先が反応し、まるで待ってましたとでも言わんばかりに、父親に無理やり押し広げられた後孔が疼き始めた。熱くなる。全身が熱くなる。発情期はまだ終わっていなかったようで。匂いに過敏になり、目が泳いでしまった。欲を抑えられない。

 アルファ、の、匂い。アルファ、が、いる。不快なだけの父親のそれとは違う優しい匂いに、誰がいるのか容易に想像がついてしまった。由良だ。由良が近くにいるのだ。もう次の日の朝になっていて、家には誰もいないと思っていたのに。由良が、いる。

「……兄さん」

 扉の向こう側から聞こえた声。遠慮がちな、気を遣うような、そんな声。慌てて駆け込んだため、ちゃんと閉まっていない半開きの扉の隙間から由良の匂いが入り込んでいた。一度入れられて緩んだ穴が濡れる。

 噛んでいた手首から徐に口を離し、でも、ビリビリと痛むその箇所に唇は寄せたまま、ゆら、と彼の耳には届かないほど小さく、掠れた声で囁けば、体温の上昇と共に目頭までもが酷く熱を持った。

「……昨日は、ごめん。襲いそうになって、助けられなくて、あんな、取り乱して、ごめん」

 苦しそうだった。由良は、苦しそうだった。苦しそうに、何度もごめんと謝っていた。俺は何も言えなかった。言葉が喉に痞えて、発情が思考の邪魔をして、兄なのに、兄らしいことは何も、何も言えなかった。