「この高校にオメガっていんのかな」

 聞こえたその声に、微かに肩が揺れた。オメガ、という単語に敏感に反応し、登校してから特にすることもない俺は、然して興味のない教科書やノートを開いたまま、勉強しているふりをして無駄な運動をしていただけの手を止めた。

 でも、止まって、すぐ、動揺を誤魔化すように、いや、逆だろうか、動揺を隠せないまま、意味もなくカチカチとシャーペンの芯を出しては戻してを繰り返してしまう俺の意識は完全に右隣の彼らの会話に引っ張られていた。

 カチカチカチカチ。手遊びをするように芯を出して、戻す。その時に、変な角度で力が入ってしまい、0.3mmのBの芯がボキッと折れた。使い物にならなくなった芯の欠片がノートの上で転がって静止する様を目にする。嫌な動悸がした。

「いたらすぐ広まるだろ。項、噛まれないように首輪だってつけるだろうし」

「そっか。オメガは希少だし流石にこんな所にはいないか」

「もしいたらアルファによるオメガ争奪戦を見られそう」

「オメガの容姿にもよるけどな」

「オメガは大体みんな庇護欲煽る容姿みたいだから大丈夫」

「女のオメガならともかく、男のオメガとかいたらどうよ。やっぱ綺麗な見た目してんのかな」

「男のオメガは希少過ぎる。いたら見てみたいな」

「まぁ、でも、俺らみたいな平々凡々なベータには鑑賞することしかできないよな」