心地良い揺れを感じ、疲れ切ったように寝ていた脳が目を覚ました。じわじわと意識が覚醒し、ゆっくりと重たい瞼を持ち上げると、コンクリートを踏みしめながら歩く、自分のものではない誰かの足が見えて。え、とほぼ吐息に近い掠れた声が意図せず漏れてしまった。

「……ごめん、起こした。もう少しで、家、に、着くから」

 やけに静かな声が、やけに抑えた声が、やけに気を遣うような声が、まだ何も聞いていないのに謝って、俺を連れて向かっている場所を言葉少なめに明かした。

 ああ、この声、由良(ゆら)だ。

 一文字一文字を大切にするような、繊細で脆弱にも聞こえる喋り方をするのは、紛れもなく、実の弟の由良だった。

 地についていない俺の足は、由良が歩みを進める度に力なく揺れている。胸や腹に伝わる由良の体温に妙な安心感を覚えてしまう俺は、兄なのに弟に背負われたまま、ふわふわとした頭で、声で、ゆら、と寝ぼけたように呼んでいた。無意識だった。

「……あんまり煽らないで」

「あ……、ごめ、そんな、つもり、は……」

 アルファとオメガ。例え兄弟でも、第二の性に兄弟という続柄なんて関係なかった。兄弟だからって、フェロモンに一切反応しないわけじゃない。由良はアルファで、オメガのフェロモンに少なからず影響を受けるし、俺はオメガで、アルファをフェロモンで無自覚に誘っている。

 いつまでも由良に甘えるわけにはいかないのに、周りに見られたら、特に親に見られたら、由良にまで危害が及んでしまうかもしれないのに、酷く体力を消耗しているのか、それとも、まだ発情期が続いているのか、全く体に力が入らなかった。