追いかけるべきではないかと思った。放っておくべきではないんじゃないかと思った。そう思って、闇に溶けかけていたその途中で目を覚まし、水面に顔を出そうとした俺を、まるで、そうはさせまいとでも言うように、海底にいた人物が、足を掴んで引きずり戻した。静かだったスマホから、瀬那、と俺を溺れさせる、冷静で、冷徹な、声が、響く。あ、と引っ張られ、浮きかけていたのに、瞬く間に、体が、心が、沈んだ。ミュートが解除された。逃げられなくなった。水面が遠くなった。由良も遠くなった。
瀬那。たったそれだけで、名前を呼ぶだけで、黛は俺を洗脳する。黛。黛。由良が。由良を。俺は。何もできていない。何もしていない。瀬那。ああ、もう、別に、どうでもいいか。由良を追いかけたとて、俺にできることは何もない。今まで何もできなかった俺が、今更何かできるとも思えない。そうだ、意味がない。由良は、出かけただけ。死にに行ったわけじゃない。一人になりたくて、気分転換をしたくて、それで、出て行った、だけ。きっと、それだけ。兄弟だからといって、そこまで干渉する必要はないのだ。関係が歪み始めても、狂い始めても。俺と由良が兄弟であることは変わらない。変わらないから、苦しい。辛い。悲しい。その元凶になっている俺が、由良を癒せるはずもなかった。機嫌を悪くさせるくらいなら、行かない方がいい。俺には、由良だけじゃない。
「……黛」
『もうすぐ着くよ、瀬那』
スマホを耳に当てて呟き、呟いた俺の声に黛が言葉を返す。もうすぐ着く。もうすぐで、俺は黛に触ってもらえる。相手をしてもらえる。気持ちいいことをしてもらえる。それらは性欲を煽るだけの恥ずべき感情なのに、高揚感を抑えることができなかった。
瀬那。たったそれだけで、名前を呼ぶだけで、黛は俺を洗脳する。黛。黛。由良が。由良を。俺は。何もできていない。何もしていない。瀬那。ああ、もう、別に、どうでもいいか。由良を追いかけたとて、俺にできることは何もない。今まで何もできなかった俺が、今更何かできるとも思えない。そうだ、意味がない。由良は、出かけただけ。死にに行ったわけじゃない。一人になりたくて、気分転換をしたくて、それで、出て行った、だけ。きっと、それだけ。兄弟だからといって、そこまで干渉する必要はないのだ。関係が歪み始めても、狂い始めても。俺と由良が兄弟であることは変わらない。変わらないから、苦しい。辛い。悲しい。その元凶になっている俺が、由良を癒せるはずもなかった。機嫌を悪くさせるくらいなら、行かない方がいい。俺には、由良だけじゃない。
「……黛」
『もうすぐ着くよ、瀬那』
スマホを耳に当てて呟き、呟いた俺の声に黛が言葉を返す。もうすぐ着く。もうすぐで、俺は黛に触ってもらえる。相手をしてもらえる。気持ちいいことをしてもらえる。それらは性欲を煽るだけの恥ずべき感情なのに、高揚感を抑えることができなかった。



