殺すように、愛して。

 黛の、ぶっ壊れた倫理観。どこかズレている思考。考え方。おかしいと言う黛の方がおかしいと誰もが思わざるを得なくても、何を言っても酷い仕打ちが待っていることを身をもって体験した彼らは、興奮とは明らかに違う意味で息を弾ませ、正気に戻った目で困惑していた。

 自分が場の空気を張り詰めさせていることなど露知らず、黛はまだ俺を見向きもせずに、一人だけ口を開いていない彼に視線を向けた。そして、唇を震わせるだけで何も言っていない彼に対しても、黛は理不尽に暴力を振るい、意図的に下腹部を踏みつけた。

「あ、あ、やば、やめ……」

 彼らは、オメガがいることを知ってここに来たわけじゃない。ただ、用を足しに来た過程で、運悪くオメガの匂いに充てられ本来の目的を忘れてしまっていただけだった。そのため、彼らは、彼は、排泄をしていない。

 下腹部を、膨らんでいた膀胱を刺激されたことで、彼の意思に反してそれは体外に排出された。股座を中心に制服の色が濃くなる。冷えたタイルが濡れる。独特なアンモニア臭が広がる。

 誰も、何も、言わなかった。言えなかった。揶揄できるような状況ではなかった。

 他人に強制的にさせられた失禁。人が見ている中での粗相。精神的な苦痛にボロボロと涙を零す彼を見ても、黛の表情筋は少しも動かなかった。淡々と、口調は柔らかいのにどこか冷めている、感情のない声で、淡々と、黛は口を開く。

「漏らしちゃったね。でもこっちの処理が目的でトイレに行ったんだから間違ってないよね。オメガのフェロモンに翻弄されて出すの忘れたら膀胱が破裂するかもしれないから、そうなる前に俺が促してあげたんだよ。俺の瀬那を襲った罰として、このまま失禁癖、ついちゃえばいいのにね」