殺すように、愛して。

「ごめん……、俺、兄さんの、その顔、嫌いなんだ。俺を見てるようで見ていない、俺以外の誰かに欲情してる顔、嫌い。そんな顔、してほしくない。見たくない。気持ち悪い」

「……ゆ、ら」

「ねぇ、兄さん。もし、俺が死んだら、兄さんも死んでくれる?」

「え、あ……」

「俺は、死ぬよ。兄さんが死んだら、俺も死ぬ。死ぬ時くらい、俺のこと考えて。忘れないで」

 俺が、瀬那の最期の記憶になればいいのに。悲しげに、切なげに、両の口角をほんの少し持ち上げて、でも、本気でそう思っているような、変わらぬ覚悟を持った目で、今の顔が嫌いだという俺を見て告白する由良。俺は何も言えなかった。答えられなかった。何が正解なのか、自分は何を思っているのか、よく分からなかった。ただ、明らかなのは、由良は俺の顔が、由良以外の誰か、黛に欲情しているという俺の顔が、嫌いだということ。見たくないほど、気持ち悪いほど、嫌いだということ。知らなかった。そんなこと。知る由もなかった。

 記憶にある限りでは、初めて由良が、辛辣な言葉を俺にぶつけた瞬間だった。でも、苛立ちも、悔しさも、嫌悪感も、不思議と湧かなかった。寧ろ、黛が密かに聞いている中での、彼ではない他人からの軽い侮辱に、瞳が熱くなる。痛くなかった。苦しくなかった。それはつまり、そういうことだ。痛くないということは、苦しくないということは、そういうことだ。そういうことだった。

 俺は先ほどよりも、由良の嫌いな顔をしているに違いない。嫌いと言われ、気持ち悪がられた俺を、電話越しで黛が様子を窺っている。その状況が、俺の何もかもを狂わせる。由良の開き直ったような、退廃的な表情すら、俺を見えない闇へ押し倒す。そして、由良も一緒に倒れ、呑み込まれていく。狭い暗闇。下には黛。上には由良。挟み込まれ、逃げ場のない場所で、溺れていく。