瀬那と、兄弟じゃなければよかった。堰を切ったように胸の内を吐露して、最後にぽつりと溢した言葉に、全ての感情が凝縮されているように感じた。兄弟じゃなければ、由良が我慢して苦しむこともなかったのかもしれない。兄弟じゃなければ、由良は黛と正々堂々やり合えたのかもしれない。兄弟じゃなければ、俺は由良にもっと目を向けられていたのかもしれない。

 でも、いくら兄弟であることを悔やんでも、どうにもできない。俺はもう、黛しか、ダメだ。衝動的であっても、由良を利用しようとした最低な俺が、純粋な由良を選ぶことなどできるはずもなかった。由良の言葉を借りるなら、そうだ。俺は、黛のいない人生なんて、考えられないのだ。黛を誰にも渡したくない。黛に俺を見てほしい。俺だけを見てほしい。由良が俺を黛に渡したくないと思っていても、俺は黛のものになりたい。黛のオメガになりたい。黛の、番に、なりたい。黛。黛。

 由良の泣きそうな顔を見て、黛を思い、由良が悔しそうに引き結ぶ唇を見て、黛を思い、俺を何度も抱き締め支えてくれた由良の身体を見て、黛を思い、黛を思った。由良の答えに、俺は何も返せなかった。それが答えに対する答えだった。

「……ごめん、今の、忘れて。瀬那が死んだら俺も死ぬってこと以外、忘れて」

 息を、吐き、大きく吸って、吐き、覚えていてほしいことだけを強調して、あとは忘れてと彼は自嘲気味に告げてから、もう一度、ごめん、と謝り、俺から身を引いて。それ以上は口を閉ざし、静かに部屋を後にした。

 由良の残り香が、俺の周りをふわふわと漂っている。俺は仰向けのまま両膝を緩く立て、後悔や忸怩たる思いに両手で顔を覆った。自分の欲を満たすためだけに思いつきで由良を利用し、追い詰め、苦しめ、傷付けてしまったことに対して、俺は、ただ、なけなしの理性を保つ頭で、罪悪感を抱くことしかできなかった。黛、黛、と由良のことを真剣に考えたいのに、意に反して脳裏の大半を占めているのはそればかり、だったから。