殺すように、愛して。

 音の出どころが判明しても、尚且つそれが俺によるものだと理解しても、由良は面倒臭そうに溜息を吐いたり舌を打ったりすることはなくて。ただ、一言。入っていいかと。詳細も、そうなった原因も何も聞かずに、電気をつけて入ってもいいかと、それだけを、いきなり、口にした。不安そうではあったが、俺を刺激しないようにか、優しく、柔らかく。慎重に言葉を選んでいるような由良からは、確かに与えられる温もりを感じる。それが俺の胸を痛いほどに突き、吐いていることも相俟って、浮かぶ言葉が声にならなかった。助けてと自ら手を伸ばし救いを求めるようなことも、いらないと差し伸べられた手を無慈悲に払い退けるようなことも、できず、どっちつかずのまま、どっちにもつけられるように、無回答。由良はそれを肯定と受け取ったらしく、ごめん、入る、と短く断り、トイレの電気を点けて、中に入ってきた。そして、便器と向かい合ったまま嘔吐く俺の背中を、迷わず躊躇わず摩り始める。またしても俺は、彼に情けない姿を見せてしまっていた。それでも、不快感には勝てなかった。

 眩しさを感じるほどの照明に頭を痛くさせながら目を細め、そして、徐々に輪郭がはっきりとし始めた視界に、自分の吐瀉物と元々あった水が混ざり合ったような、グロテスクだとさえ思う汚い液体が映り、あ、という間もなく煽られるように嘔吐いてしまった。見ないように目をギュッと瞑る。視覚を遮断する。感じていた頭痛が酷くなる。自ら強く目を閉じるという行動すら、脳に負担がかかってしまうのだろうか。仮にもしそうだとしても、目は開けられなかった。開けたくなかった。見たくなかった。