一際大きく跳ねた心臓に、ハッと瞼が持ち上がった。ドク、ドク、と普段とは違う不吉な音を奏でるそれに煽られ、開いたばかりの目がうろちょろと忙しなく動き出す。でも、何も見えなかった。

 ベッドの上、室内はまだ暗く、完全に深まった夜の真っ只中。悪夢に魘されていたわけでも、何か大きな物音がしたわけでもないのに急に目が覚め、チクチクと、そうとしか言い表せない漠然とした悪い予感が胸を突き、夜中なのにどんどん頭が冴えていく。自分の身に何が起きているのか分からず、それによる混乱すらも、突然襲った動悸に拍車をかけているかのようだった。

 胸を抱くように、横を向いた。体は動いた。動かせた。金縛りではなかった。身を捩って自衛できることに少しの安堵感を覚えながら胎児のように丸くなり、独りでに暴れる心臓を落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。冷や汗が背中を伝っていた。吐く息が妙に冷たかった。震えていた。

 このまま、こんな形で、死んでしまうのかと考えた。本気でそう考えた。そう思った。何度も死のうとした罰だろうか。死に切れなかったから殺してやろうと、死にたければ殺してやろうと、俺を守ることに嫌気がさした体が俺を死に追いやっているのだろうか。そんな、ありもしないであろうこじつけたような支離滅裂な理由が頭に浮かんでは消えて、また浮かんではまた消えて。それでも、確実に迫っていると感じてしまう死を俺は受け入れようとしていた。俺はここで、いきなり、準備も何もないまま、死んでしまうのだ。