殺すように、愛して。

 俺はずっと、瀬那だけだよ。瀬那さえいれば他は何もいらない。瀬那。瀬那。可愛いね。電話口で動揺してる瀬那も、可愛いね。可愛い。今度は俺から、電話するからね。淡々と、次々と、息つく暇もなく告げられ、まゆずみ、と全てを言い終える前にプツンと通話を切られる。一方的に、切られる。俺の話を全く聞こうともせず、言いたいことだけ言って、理解の追いついていない俺を置いてけぼりにしてまた放置することを愉しむように、切られる。黛を前に、俺は何一つまともな発言ができなかった。させてもらえなかった。黛が今いる場所も、雪野の状態も、聞けず、俺の意志も、言えず、何も、できなかった。

 しばらく頭が働かない状態で無機質な音を聞き、そして、遅れて、自分の今までの行動が全て無駄だったことを突きつけられる。勘違いだった。俺は勘違いしていた。確かに黛は、番を殺すとは言っていない。噛んだ奴を殺すと言っていた。それを俺が勝手に、番を解消すれば相手は殺されずに済むと解釈したのだ。番の関係を切ることができたとしても、意味なんてなかった。俺の項を噛んだ時点で、噛んだ人、雪野は、黛の手によって殺される運命となってしまっていたのだ。それは、俺のせい。俺のせいだ。黛の言うとおり、俺のせい。

 勝手に奔走して、勝手に苦悶して、でも、それらの行動一つ一つが無意味だったと自覚した途端、俺の要望が叶ったとしても、雪野の未来も黛の言動も何も変わらないのだと認識した瞬間、そのあまりの不条理さに顔が引き攣り、乾いた笑いが込み上げてきそうだった。そうか。そうだ。黛は最初から、そう言っていた。間違っていたのは俺だった。都合のいい解釈をしていたのは俺だった。黛は、黛だ。黛に常識なんて通用しない。雪野は殺されるだけで、俺にそれを止める手立てはない。誰にも黛は止められない。