殺すように、愛して。

 待っていても黛は来ない。でも俺は、今の俺は、待つことしかできない。黛が来るのを、待つだけ。黛が宣言通り元に戻してくれるのを、待つだけ。結局俺は人任せ。何がしたいのかも、何をするべきなのかも、判然としなかった。現実逃避をしたくなる。寝て起きたらもう全部元通りになっているんじゃないか。ぼんやりと思いつき、信憑性のないことを思いつき、もう考えるのをやめたくて、放棄したくて、俺は数時間前まで横になっていたベッドを見た。寝てしまおう。死ぬように、記憶を飛ばしてしまおう。そうしてしまおう。そうしてしまえばいい。目を閉じて、横になって、自分の殻に閉じ籠もって、惰眠を貪るのだ。何もせず、他力本願で。一生目が覚めないくらい深く、深く、眠りに落ちてしまいたい。

 床に足をつき、そうして、考えるよりも先に引き出しを開ける。中から、黛に受け取らされたルーズリーフを取り出した。何枚かは水濡れの跡が残っており、波打っている。自分の唾液と、精液だ。覚えていた。発情期中、俺はこれを見たり舐めたりして性欲を発散させ、何度も抜いたのだ。汚くて、汚くても、処分できなかった。黛の文字が、邪魔をする。俺はきっと、ずっと、この紙を手放せない。気持ち悪いだろうか。気持ち悪いかもしれない。気持ち悪かった。俺を気持ち悪い人間にしたのは、黛だ。黛のせいだ。黛のせいにして、俺は、浮き彫りになり始めている自分の素質から目を背けた。

 ルーズリーフを手にしてとろとろと歩き、乱れたままだった布団の中に潜り込む。熱くても、布団を被った。その中で、何枚もの紙を見て、文字をなぞって、黛を間接的に飲み込むように、舌を這わせた。自分の世界に入り浸った。殻に籠もった。蓋をした。扉を閉めた。鍵をかけた。黛。黛。呟いた声は紙に溶け、俺の意識を惑わせた。黛を感じながら目を閉じ、黛を感じながら紙を抱き、黛を感じながら力を抜き、黛を感じながら眠りにつく。そうしながら、落ちたかった。そうしながら、飛びたかった。そうしながら、気絶するように、死ぬように、俺は眠った──。