「……やっぱり出ない」

 耳に当てていたスマホを離し、虚しく鳴り続ける無機質な電子音を指先で画面に触れて切った。もう何度、自分からかけては、自分で切ったか分からない。同じ行動を違う場所でコピーペーストしたみたいに、何も修正が施されずにいる。相手が電話に出てくれないことには、それにずっと変化はなかった。

 近くでその様子を見守っていた由良は、もう、黛先輩が手を出した、とか、と剣呑な表情で俺に目を向け、そして、なぜか責任を感じているかのように重たく視線を下げた。どうしよう、どうしよう、と由良は何一つ悪くないのに焦っているのが窺えて、彼は俺以上に懊悩しているように見えた。まるで自分のことのように、真剣に問題と向き合ってくれている。それなのに、何も進展していないこの現状に人知れず申し訳なさを感じた。もういいよ、もう諦めるから、受け入れるから、と本当は嫌なのに不貞腐れてしまいそうになる。これは、俺が我慢すればいいだけの話なのだから。運命だから仕方がないで済ませればいいだけの話なのだから。もし、もしも本当に、雪野が殺されてしまったとしても、その責任は俺にあって、由良は何も悪くないのだから。

 自ら死を選んだものの死に切れず一命を取り止め、終わりかけた人生を再スタートするように退院してから既に数日が経っていた。当時、頭を冷やし少し冷静になった由良と改めて会話を交わし、雪野さんが殺されてしまう前に一度俺からも説得してみるから、と何もせずに指を咥えているよりも何かした方がいいという由良的な精神に則り、黙って頷いたことでその話は落ち着いたものの、一緒に持ち出した課題の進捗はとても悪かった。説得できるできない以前に、雪野が電話に全く応答してくれないのだ。前進も後退もできずに二人して途方に暮れ、立ち往生してしまっていた。直接自宅に行ってみるべきかとも思ったが、生憎俺も由良も、雪野の家がどこにあるのか知らず、見当もつかず。よって、思いついたその案は瞬時に霧散した。