俺が雪野に噛まれなければ、オメガの本能に負けずに抵抗して逃走することができていれば、黛を煽ることも、由良を心労させることもなかったのかもしれないと、巡り巡ってぐるぐると彷徨い、ふらふらと足場の悪いそこに着地してしまったら、その沼に落ちてしまったら、結局悪いのは自分じゃないかという自責の念に駆られた。

 小さく溜息を吐いて、視線を落として、下ばかり見て、頑丈に巻かれた布の上から項を触る。少し痛かった。場所としては項のはずなのに、なぜが胸が痛かった。死にたい。死ねない。死にたい。殺してほしい。一人きりになった途端、俺の体に死が群がってくる。ここぞとばかりに纏わりついてくる。死への憧憬が、ゆっくりゆっくり、俺の知らぬ間に、じわりじわり、音もなく大きくなっているかのよう。死にたい。死にたい。殺してほしい。

 俺が死ねば、由良と繋がった糸がピンと張って、それは釣り糸のように頑丈なために容易には千切れず、既に覚悟を決めている由良も一緒に落下していってしまうのに、そうして由良を道連れにしてしまうと分かっているのに、息をするように死を求めてしまうことを、死を崇めてしまうことを、心に余裕があるとは言えない俺はやめることができなかった。