由良にはトラウマになってもおかしくないような光景を見させてばかりだ。両親の虐待行為も。黛の暴行も。彼とのプレイのような行為も。自ら死の瀬戸際に立った人間の姿も。由良も精神的なダメージを受けているはずなのに、そんなことなどおくびにも出さないように取り繕いながら振る舞っているみたいで、見ていて辛くなってしまったが、生憎何か気の利いた慰めのような言葉は思い浮かばなかった。由良の辛さに気づいていても口にはせず、できず、それが正しいことなのかどうかも判別できないまま、俺は、ありがとう、とその一言に全てを込めて。そして。由良の口から湧いて出た黛の話を拾い上げた。
「黛……、黛は……、もう勝手に動き回ってて……。前から何度か言われてたんだ。俺の項噛んだ人は、その……、殺す、って……」
「ころす……?」
「うん……、それで、元通りにするからって言って、出て行った。どこに行ったんだろうね」
開き直りのような、諦めのような、そんな言葉を吐きながら、それでも、どうにかしなければ、という焦りは常に胸の中を渦巻いていた。渦巻くだけで、依然として策はない。何も浮かばない。確かにあるはずのどうにかしたいという俺のその感情は、もしかしたら偽善なのかもしれない。だから、頭が働かないのだろうか。思考を妨げているのだろうか。心のどこかでは、片隅では、黒く光る闇の部分では、黛に雪野を殺してもらえたら、と思ってしまっているから。それを俺は、否定できないから。
「黛……、黛は……、もう勝手に動き回ってて……。前から何度か言われてたんだ。俺の項噛んだ人は、その……、殺す、って……」
「ころす……?」
「うん……、それで、元通りにするからって言って、出て行った。どこに行ったんだろうね」
開き直りのような、諦めのような、そんな言葉を吐きながら、それでも、どうにかしなければ、という焦りは常に胸の中を渦巻いていた。渦巻くだけで、依然として策はない。何も浮かばない。確かにあるはずのどうにかしたいという俺のその感情は、もしかしたら偽善なのかもしれない。だから、頭が働かないのだろうか。思考を妨げているのだろうか。心のどこかでは、片隅では、黒く光る闇の部分では、黛に雪野を殺してもらえたら、と思ってしまっているから。それを俺は、否定できないから。



