殺すように、愛して。

 決して怒鳴ることのない由良に、俺は甘えてしまっている。俺が怒鳴られることに強い恐怖を覚えることを知っているみたいに、彼は何があっても声を荒げることはなかった。由良は優しくて、優しすぎる。だからその分、繊細で、脆弱で。目が合った時に見た濡れた瞳は、あまりにも綺麗すぎて。思わず目元の透明な涙を掬い取ろうと反応しかけた手を咄嗟に止める。今、触れたら、壊れてしまうと思った。そんなはずもないのに、壊れてしまうと思った。容易に触れることはできない。

「もう、ダメかと思った。家に帰って倒れている兄さんを見つけた時、頭真っ白になって。血の気が引いて。呼びかけても反応はないし、首からは大量に出血してるし。救急車をちゃんと呼べたのかもはっきりとは覚えてないけど、病院にいるからパニックになってても呼べたのかな。もう本当に、その時はよく分からなくて、とにかく止血しないとって救急隊の人が来るまでずっと傷口を布で押さえてた。それくらいしかできなかった。それが兄さんが望んだことじゃなかったとしても、俺は死んでほしくなかったから。必死だった。だから、やっと意識が戻って、よかった」

 兄さんがしたかった番の解消、俺も協力するから。役立たずの足手まといかもしれないけど、運命ってだけで同意なしに噛んだのは俺も納得がいかないから。いざとなったら、俺は苦手だけど、話しかけられないけど、どこか逸脱した黛先輩に協力を仰ぐのだってありだよ。黛先輩、兄さんの頼みならきっと引き受けてくれる。あの人は、側から見てもそうだと断言できるほど、兄さんしか見てないから。無理に笑みを作り、どことなく自嘲気味に誤魔化し、明るく振る舞おうとする由良の口から、俺が生き延びた事の顛末を聞かされ、由良が絶望に瀕した俺を掬い上げてくれたのかと腑に落ちた。