殺すように、愛して。

 由良の抱擁で落ち着きを取り戻したら、幸か不幸か、心が空っぽになるような感覚がした。問題は山積みで、解決しないことばかりで。その方法も見つからなくて。何から手をつければ上手くいくのだろう。黛を見つけることだろうか。雪野ともう一度交渉することだろうか。このまま何もしないまま、できないままでいることだろうか。由良に全てを打ち明けて、協力してもらうことだろうか。一体何から。一体何をすれば。ぐるぐるぐるぐる、同じことの繰り返し。

 暴れていたのが嘘のようにぼんやりとして力を失くし、看護師にシーツから何まで綺麗にしてもらうのをどこか遠くの方で他人事のように眺めながら、気づけば俺は目覚めた時と同じ体勢で寝かされていた。自分の口から看護師に感謝を伝えたかどうかうろ覚えで、もしかしたら何も言わなかったかもしれなくて。そんな自分に嫌気がさした。胸が酷く重くなる。

 汚れ一つない白い天井を瞳に映して、自分は何がしたかったのか、何がしたいのか、何ができたのか、何が言えたのか、と心の中で自問自答する。自分が自分にするいくつもの問いかけに、自分は何も答えなかった。答えられなかった。

「……兄さん、何か欲しいものある? 飲み物とか」

 まだ側にいてくれたらしい由良の気遣いに意識を引き戻され、渦巻く思考が元に戻るのを少し待ってから、大丈夫だよ、ありがとう、と痛み始めた首を僅かに動かして彼に目を向ける。迷惑をかけないための、ありきたりな受け答え。兄弟ではない他人同士のような空気感に、そっか、とどことなく不安の見える表情で小さく唇を震わせた由良は、それっきり静かに目を伏せた。文字通り距離のある沈黙が広がり、なんとなく、息が詰まる。息苦しくなる。踏み込みたくても、お互いに遠慮して線を引いてしまっているから踏み込めない。あと一歩が出なかった。