線を引くように、躊躇いもなく皮膚を切る。ヒリヒリとした火傷のような痛みが襲いかかってくるが、望んでいないのに番にさせられたあの奇妙で不快な感覚は消えなかった。拭えなかった。抑えられなかった。まだ、足りない。死ぬには、消すには、まだ、足りない。なぞるように、もう一度、刃を充てがって切る。見えない項がどんな目に遭っているのかは分からず、それでも、切り口から溢れているであろう生暖かい液体が首筋を伝うのは分かった。濃く真っ赤なそれが、着ている衣服を汚そうが、巻いている包帯に染み込もうが、どうでもいい。どうでもよかった。

 死にたくて、消したくて、俺は自らこうしている。死ぬために、消すために、俺は自らこうしている。生きているから、残っているから、俺は自らこうしている。頼る人や物が存在しないから、極端な思考に至る脳は死を求め、死を求めているから、死に憧れているから、首に感じる激痛すら崇高なものに変わる。自殺する人は、誰の目にも触れることなく静かに呼吸を閉ざすのだ。蝋燭の火を吹き消すように、ふっと、一瞬で、消えていくのだ。

 何度も何度も何度も、繰り返し繰り返し繰り返し、どこかのタイミングでぐらりと倒れるまで項を傷つけ続けた。アルファである雪野の噛み跡がいつまでも泳いで蠢いているみたいで、底知れない不快感、不安感に覆い尽くされる。気持ち悪くて吐きそうだった。それでも、自傷する手は止まらなかった。嘔吐を促されても、止まらなかった。止められなかった。