抵抗を示されても平然としている黛は、首を絞めながら俺の腰を掻き抱く。足の力が抜けかけている俺を支えるような触れ方に、優しいのか優しくないのか分からなくなった。片手は首を絞めているのに、片手は腰を抱いている。まゆずみ、と名前すら口にできない、何も喋れないほどの息苦しさに、腰に走る歪な優しさに、めちゃくちゃに思考が乱れる俺は、気が狂いそうになっていた。

 しぬ。しぬ。しぬ。まゆずみ。に。ころされる。ころされる。まゆずみ。まゆずみ。おれ。しぬ。から。やめ。て。だれか。だれか。きて。

 意識が朦朧とし始める。霞んで歪んだ視界の中、俺を見つめる黛の目には、活力が漲っていた。普段はどことなく虚ろなのに。今の黛の目の色は明らかに変わっている。滾っていると言っても何も不思議ではなかった。

 突拍子もなく命を握られ、本気で、冗談抜きで、死を意識した時、首を絞めていた黛の手が音もなく離れ、求めていた酸素が一気に喉を通り抜けた。激しく噎せてしまう俺を、黛は、自分は何もしていない、自分は何も悪くないとでも言うように引き寄せ、慈しむように髪を撫でる。体に上手く力が入らず、抱き締めることを許してしまう俺の耳に、黛の吐息が届いた。

「瀬那は、俺のオメガだよ」

 暴れる心臓が、鈍く痛む頭が、熱を持つ傷痕が、荒っぽい呼吸が、俺に生を訴えている中、それらの音や痛みに負けないくらい大きく響いた黛の声に、見えない鎖を巻きつけられたかのような不穏さを感じた俺は、みるみるうちに暗転していく未来を見た気がした。