殺すように、愛して。

 瀬那の発情期中のフェロモンには気をつけてね。軽く付加された核心をつくような忠告に、ドクンと心臓が大きく跳ねた。俺。発情期。フェロモン。由良。初めて発情期を迎えた日、由良の理性が危うくなった瞬間があったことを思い出す。そのことをわざわざ誰かに、黛に、報告するはずもないのに、由良も誰かに話すなんてことはないだろうに、まるで何もかも知っているとでも言わんばかりの黛の台詞に意表を突かれる。気をつけてね、と圧をかけられる由良は、俺を一瞥して。それから、黛の機嫌を損ねないようにか、はい、と吐息のような声ではあったが素直に頷いた。知らないはずなのに、知っている、知られている、そう思わせるような単調な声で咎められてしまっては、素直に吐くか、素直に従うかしかできなくなる。それは由良も、例外ではないようだった。

 由良には指一本触れずに、黛はようやく、希望を叶えるように、期待に応えるように、俺の方へ顔を向けた。他人の両親を散々殴り倒しておきながら、罪悪感なんて一切ない、恐怖も動揺も後悔も何一つ感じられない、冷たく真っ黒に染まっている瞳と視線が交わった瞬間、黛、と引き出されるように声が出て、足元を窺うように見下ろされていることに扇動される。興奮。興奮する。興奮していた。俺は黛に見下ろされて、興奮していた。狂っていた。意識がはっきりとしている由良の前であることも、気絶している両親のすぐ側であることも忘れてしまうほど、俺をその瞳に落とし込んでくれる黛に一気に夢中になる。狂っていた。待っていた。ずっと、待っていた。黛を、待ち焦がれていた。狂っていた。