殺すように、愛して。

 謝罪も、命を乞う隙も、やっぱり与えられないまま、母親は打たれ続ける。自分の親が殺されかけているのを目の当たりにしているのに、俺はなぜか暴行を加えている黛に興奮していた。目が濡れる。息が乱れる。体が熱くなる。冷めない。覚めない。醒めない。

 一方的に殴られ続ける母親は、父親よりも早く力を失くす。それを見た黛はすぐに興味を失くしたように、瀕死の人間をその場に投げ捨てた。高揚する。見惚れる。期待する。冷めない。覚めない。醒めない。

「俺の瀬那を痛めつけるからこうなるんだよ。瀬那を壊していいのは俺だけで、瀬那のせいにしていいのも俺だけ。オメガだから。そんな理不尽な理由で瀬那を殺そうとする奴なんか、早く死ねばいいのにね」

 床に転がる、黛自らが壊して捨てた俺の両親を見下ろしながら、彼はいつもと変わらない声色で毒を吐き、俺、ではなく、密かに正気を取り戻していた由良に目を向けた。黛は、まだ、俺を見てくれない。黛。黛。黛。俺はここだよ。

 俺よりも先に黛に見下ろされる由良は、あ、と掠れた声を漏らして目を泳がせるものの、すぐに覚悟を決めたように歯を食いしばった。自分も両親みたいに殴られると思ったのかもしれない。身を挺して俺を守ろうとしてくれた由良だけはそうならないように、黛、と頼りない声でも呼び止めようとしたが、そうする前に黛の口が先に動いた。

「瀬那が大事にして、同じように瀬那を大事にしてる人は壊さないよ。でも、どんな理由であれ瀬那に危害を加えた場合は別だから」