殺すように、愛して。

 きつく、きつく由良を俺から引き離そうとする母親と、きつく、きつく俺を抱き締め離さない由良。二人の攻防戦が続く中、この家の大黒柱でもある父親の足音が聞こえ、こちらに近づいてくるのが分かった。ぐらぐらと脳が揺れていても、その気配は察知した。空気が更に悪くなり、重くなる。それでも由良は、俺から離れようとはしなかった。由良、由良、由良。由良が、大丈夫じゃない。

 父親は母親と違って、暴行以外でも俺に触れる。暴力を振るう過程であれば、嫌っているオメガに触ることくらい抵抗なく容易にできるのだ。だから、だから。由良、由良、由良、父親が、父親が、父親が、来る。来る、から。力で強制的に弾き飛ばされる前に、自分を守って。由良が傷つく必要はない。由良まで気が狂う必要はない。ないのに。

「おい、お前、何してる。離れろ。汚いオメガがアルファの由良に触るな」

 怒気を孕んだ低い声を響かせながら、母親が一人で剥がそうとしていた俺と由良の接着を、遅れて姿を現した父親が左右それぞれの手で俺と由良の肩を掴み、ビリビリと引き剥がした。間に合わなかった。何もできなかった。成す術もなかった。肩が痛い。ごめんなさい。やめてください。由良には何もしないでください。

 由良が遠くなる。由良が離れる。由良が崩れる。由良の熱が攫われる。由良が母親に包まれる。由良が抵抗する。由良の目が濡れる。伸ばされた手が掠る。体が衝撃を受ける。父親が俺を殴る。俺の脳が揺れる。玄関の模様が巨大化する。突き飛ばされる。押し倒される。上に跨られる。襟首を掴まれる。殴られる。殴られる。殴られる。由良が泣いている。殴られる。由良が泣き叫んでいる。殴られる。由良が何か言っている。殴られる。壊される。壊される。壊される。壊れる。壊れる。壊れる。狂っている。俺がいるから狂っている。三人の声がぐるぐると脳内を駆け回り始める。