殺すように、愛して。

 その気持ち悪い人の気持ち悪い手が、気持ち悪いと思っている俺を包む由良の肩を掴んでいた。由良も負けじと俺を抱き竦める。由良の手は身動きが取れないくらい力強いのに、それはどこか、脆く壊れてしまいそうなほど繊細で丁寧な抱擁だった。

 由良の体温が、包帯をなくしたことで布との隔たりが薄くなった俺の肌に熱を覚えさせる。彼は俺をリラックスさせるように、自分自身の感情を抑え込むように、ゆっくりと息を吸っては吐いてを繰り返し、ごめん、ごめん、大丈夫、大丈夫だよ、俺が全部受けるから、兄さんは少しも悪くないから、俺が招いたことだから、俺のせいだから、と何の脈絡もなく自分を責め立てた。ゆら、と呼ぶ声は空気に溶けるだけで。大丈夫、大丈夫、俺が兄さんをこれ以上傷つけさせないから、大丈夫、もう、大丈夫、全部、全部、俺が受けるから、大丈夫、とどことなく冷静さを失っているようにも見える由良の耳には届かなかった。

 由良、由良、由良。母親の声が頭に響く。響く。響く。大丈夫、大丈夫、大丈夫。由良の声が頭に響く。響く。響く。由良、由良、由良。大丈夫、大丈夫、大丈夫。誰もが冷静ではなくなり、ぐるぐるぐるぐると同じ言葉を聞いて、聞かされている俺も、一時は由良のおかげで落ち着いたはずなのに、またじわじわと狂い始めた空気に感化され、目の前がぐにゃりと曲がった。由良由良由良。視界が、右回転、左回転。大丈夫大丈夫大丈夫。視界が、右回転、左回転。母親の声と由良の声が重なり、結びついて歪み、ぐるぐるぐるぐる。三半規管を攻撃する。酷く気分が悪くなった。落ち着いても大丈夫も言えないまま、一緒になって、ぐるぐるぐるぐる。由良由良由良。大丈夫大丈夫大丈夫。ゆらゆらゆら。だいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶ。