殺すように、愛して。

 ごめん、ありがとう、由良。蹲る彼を見ないまま、ぽつりと声を漏らすと、その音を最後に沈黙が広がった。落ち着かない、気まずい無言の時間ではなく、不思議と居心地は悪くない沈黙。たくさん迷惑と心配をかけてごめん。こんな俺を見捨てないでいてくれてありがとう。隣に由良を感じながら、今度は頭の中だけで台詞を連ねた。謝罪と感謝は、いつだってセットだった。でも両親に対しては、謝罪ばかりだった。

 リビングから変わらず聞こえている微かな音や声が、俺と由良の間に流れていく。由良のことを気に入っている両親が、いつ不審がってこちらへ顔を見せるか分からない。ここは壁が薄いため、由良が階段を降りる足音すらしっかりと拾っている可能性が高かった。俺が帰ってきたことも、無視をしているだけで本当は気づいているのかもしれない。

 もし両親が、由良は彼奴と話をしているんじゃないか、という思考に至ってしまったら、瞬く間に家は怒気に包まれてしまうだろう。その未来を想像してしまって、その未来が想像できてしまって、震えそうなほどの動悸がした。

 怒られないように。叱られないように。殴られないように。蹴られないように。壊されないように。崩されないように。殺されないように。願って、祈って。自分を掻き抱く。由良とはもう離れた方がいいかもしれない。お互いに目の届く距離にいるべきではない。由良のためにも、と言いたいところだが、本当は保身のためだった。由良といるのを見られると、それを目にした両親の苛立ちや怒りの熱波は全て俺に充てられるのだ。由良のせいで、なんて思ってはいないが、由良と一緒にいる、話している、という事象は、一人で大人しくしている時よりも、差別的な両親の逆鱗に触れる。だからと言って、話しかけるな、関わるな、とは、彼に少なからず救われている俺の口からは言えなかった。由良は悪くない。由良にきっと悪気はない。