黛に監視されているわけでもないのに、そんな気がしてしまう俺は、つけていることに違和感を感じなくなっているのも相俟って、首輪を手放せなくなっていた。外しているところを黛に見られたら、酷く機嫌を損ねてしまいそうで。怒りを買って暴力を振るわれてしまいそうで。

 でもそれは、外出する時のみの話だった。家で身を潜めている時は、黛の束縛を上回るほどの両親への畏怖に苛まれ、外さなければ、という衝動に駆られてしまう。ただでさえ忌み嫌われているのだから、オメガ特有の首輪をつけたまま過ごし、眉間に深い皺を作らせるような愚かな真似はできなかった。自ら逆鱗に触れるような言動は、例え意図せずであっても避けなければならない問題なのだ。身を守るための必須事項。

 学校ですれ違うこともあるため、由良には首輪について知られてしまったが、俺を案じるように声をかけてくれた彼が両親に告げ口をする恐れはないだろう。現に、死にたくなるほどの暴言暴力は相も変わらずだが、首輪について咎められたことはなかった。家族で唯一俺の味方でいてくれる由良の協力のおかげだろう、今のところは上手くやれているようだ。そしてそれを、両親の元から離れられるようになるまでは継続しなければ、と毎日包帯で肌を隠しながら思うのだった。これ以上の苦痛を味わいたくはない。

 外ではちゃっかり首輪をつけ、家ではしっかり外す。神経を酷使するような気を遣った生活が続き、最初こそ、他クラス他学年男女問わずちらちらと目を向けられこそこそと話をされることもあったが、それも時間が経ち、日が経てば、何事もなかったように治まっていった。慣れてしまったのだろう。俺が首輪をつけていることに。俺も随分と慣れ始めてしまっていた。そう、慣れてきてしまっていたのだ。首輪が体に、皮膚に、馴染むようになってきてしまったから。