ああ、おかしい。おかしすぎる。見られて、恥ずかしい、はずなのに。脳が、溶ける。心が、蕩ける。興奮、高揚、快感。ああ。ああ。嘘だ。嘘。これが、気持ちいい、なんて、嘘だ。やめて、じゃなく、もっと欲しい、なんて。嘘だ。嘘だと言って。嘘だと示して。俺の、体。舌、気持ちいい。おかしい。見ないで。俺、今、普通じゃない。気持ちいい。

 黛に貪られると、正常じゃなくなる。目の前が弾け、脳も一緒に弾け、激情に駆られる。別に発情しているわけじゃないのに、頭がぼんやりとして、全身が火照って、息が乱れて。苦痛も羞恥も、第三者の視線も、性感帯を刺激し、陶然、陶酔する。変わっていく身体と、教え込まれる快楽に、切っても切れない、切りたくても切り離せない関係に、気が狂ってしまいそうだった。

「可愛いね、瀬那。可愛い。今日は、弟じゃなくて、俺が、家まで送るね」

 他人の目がある中でキスをされ、首を絞められたのに、ふわふわとした高揚感は拭えなかった。体の力が抜ける俺を支える黛に家まで送ると囁かれ、縛られても、は、あ、と喘いでしまうだけで何も言えず、俺は黛に強制的にエスコートされるように歩かされていて。黛は一度も彼らの方を見ず、俺も、口腔を掻き回されてからは、彼らに目を向けることができないでいた。

 気まずさを払拭するために対面したはずが、もっと気まずくなる事態となってしまい、黛が姿を現してから何も言葉を発さなくなった彼らとはもう、目を合わせて話をすることはできそうになかった。