大声ではないのによく通る声色と、ふわりと香る甘くて危うい匂い。空気が変わるほどの圧倒的な存在感。俺ではなく、俺の斜め上を強張った表情で見つめる彼らのリアクション。疑う余地もなく、それは、黛だった。俺の首を捕らえ、瀬那、と俺にだけ聞こえるように息を吹きかけるのは、紛れもなく、黛だった。彼の指の下で、首輪の下で、喉が、震える。

 あ……、ま、まゆずみ……。瀬那、誰と、話してたの。え、だ、誰って……。一人で、喋りすぎだよ、瀬那。え、や、ひと、り……。分かった。舌が、寂しいんだね。な、なに、それ、ちが……。大きな独言するくらい、寂しいんだね。ひ、ひと、いる、いる、よ……。あれだけしたのにね。可愛いね。ま、まゆずみ……、話、き、聞いて……。瀬那は欲張りだね。まゆずみ、まっ、待って……。俺は、瀬那だけだよ。や、め……。瀬那、だけ。あ……、っ……。

 一方通行で自分本位な言葉と共に言い寄られ、人目も憚らず唇を押し付けられた。抵抗しようにも、唇を塞ぎながら躾けるように首を絞められてしまってはどうすることもできなくて。寂しいと勝手な解釈をされた舌を慰めるように、熱く濡れた同じものを強引に差し込まれてしまった。

 人の目がある中でされていることにパニックに陥り、全身が痙攣するように小刻みに震え、力が抜けそうになる。それなのに。苦しくて、恥ずかしくて、そのはずなのに。早々に、舌体や口蓋を嬲る黛の舌に翻弄され始め、思考や身体が徐々に狂っていくのを実感した。