生徒会室を出て、いの一番に手洗い場へ向かった俺は、口の中を満たしている嘔吐後の不快な臭いや味を消すため、大量の水を口に含んで洗い流し、吐き出した。はぁ、はぁ、と息が乱れる。あんな汚いものを、しかも他人の吐瀉物を、黛は平然と舐めて飲み込んだのだと考えたら、おかしいを通り越して気味が悪かった。冷静になった頭で黛の言動を反芻すればするほど、普通とは明らかに違うことが浮き彫りになるだけで。おかしい。狂ってる。気持ち悪い。常軌を逸している。マイナスのイメージばかりが脳内を埋め尽くし、それは、容姿や肩書きではカバーしきれないほどだった。

 その黛に触られた唇が、異様に熱い。口の中も、やけに熱い。水を含んだのに、すぐにまた熱をぶり返しているかのようで。言葉も行動も支離滅裂な上に理解不能なのに、何度も重ねられ、深く注がれた欲は、嫌になるほど甘く優しく全身に染み渡っていた。自分勝手なキスをされたのに、俺は、それが、不快、では、なかったのだ。不快、では。甘い、だとか、優しい、だとか、散々狂っているだなんだと黛のことを悪く思いながらも、キス自体は嫌じゃなかっただなんて、甚だ矛盾している。黛に誘発されて、自分もおかしくなりかけているんじゃないかと、鏡に映る、疲労を隠しきれていない自身の顔を見ながら、唇を引き結んだ。