あ、あ、と受け取ったルーズリーフに皺をつけてしまいながら、俺はその狂った黛の腕を掴むが、掴むという動作しかできなくて。引き離すことはできなかった。

 また息の根を止められそうなほど首を絞められ続けた俺は、黛の五指が離れた途端激しく噎せていた。毎度毎度、心臓が暴れて痛くなる。今度こそ死ぬんじゃないかと生きた心地がしなくなる。誰でもそうだろうが、首を絞められるのは恐怖でしかなかった。

 どうして、俺が、こんな目に遭うのか。どうして、俺が、首を絞められるのか。学校でも家でも、俺はまともな呼吸すらさせてもらえないのか。どうして、どうして。

 決して綺麗ではない声で咳き込みながら涙を流し、どうして、俺が、ばかりの卑屈な思考に陥る俺を抱き締めた黛は、可愛いね、瀬那、と終始音の変化のない可愛いを繰り返し、恐ろしいほどに優しい手つきで髪を撫で、そして、はっきりとした口調で断言した。

「瀬那は俺のオメガで、俺からは離れられないよ、絶対に」

 縛られる。めちゃくちゃに。雁字搦め。いくら抵抗しても。苦しすぎて、足元が覚束なくて、ふらついて、黛に体を預けてしまう俺は、彼にいとも簡単に傀儡のように操作され、彼好みに作り変えられ、知らないうちに心も体も少しずつ改造されているんじゃないかと思わずにはいられなかった。