「うん。どうせ暇だし」


帰っても色々と考え込んでしまうだけだ。


今はこうして佳苗とゆっくりした時間を過ごすのもいいだろう。


僕はそう思い、佳苗について職員室へ向かうことにした。


職員室の前には２０代くらいのスーツ姿の男性の姿があり、家庭科の先生と立ち話をしていた。


「じゃ、行ってくるから待ってて」


佳苗は軽く手を振り、なぜか嬉しそうに職員室に入っていく。


手持ちぶさたになった僕は何気なく先生と男性の会話に耳を傾けた。


「お久しぶりです先生」


少し緊張した声色で背筋を伸ばす男性は、立派な大人という印象だ。


そんな男性を見上げて先生は目を細める。


「こんなに立派になって。良かったわ」


「ありがとうございます。今度お店がオープンするので、ぜひ先生も起こしください」


そう言って男性は内側のポケットから名刺を取り出した。


まさかと思い、横目でそれを確認する。


小さな文字だから最初の方は読めなかったけれど『シェフスリー』と書かれている部分だけがみえた。