「軍の寮から戻ってくるたび、お兄様は深夜庭で素振りをしていたから、きっと素振りをしに行くんだと思った。だけど、いつもだったらシャツにズボンっていうラフな恰好なんだけど、そのときには士官服だった。とにかく、わたしはうれしかった。やっと二人っきりになれる。しかも、本物の剣を振らせてもらえるかもしれない。有頂天になった。でっ、抜き足差し足ですぐ側まで近づいたの。すると、お兄様が震えていることに気がついた。お兄様は、何か怖いこととか不安なことがあって泣いているのって感じた。ほんとうは『わっ』って脅かすつもりだった。だけど、そんな雰囲気じゃなかった。どうしていいかわからないでいると、お兄様がパッと振り向いたわ」

 無意識のうちに、左腕の傷痕をシャツの上から右手でおさえていた。