馭者台でフードを目深にかぶり、街の様子をうかがってみた。

 噂は、本当なのだとつくづく噛みしめた。

 石畳上に寝転んだり物乞いをしている人たち。ボロボロの衣服に身を包んでいる子どもたち。無気力な様子で通りすぎてゆく多くの人たち……。

 わたしのいた世界とはまったく異なる世界……。

 周囲を行軍する兵士たちの向こう側に見える世界は、わたしのいた世界などよりずっとずっと現実的な世界なのね。

「このクソガキッ!また盗みやがったな」
「ひったくりだぁっ!」
「おまえからぶつかってきたんだろうがっ」

 きくに耐えない言葉の数々や悲鳴や怒号が、いたるところで起こっている。