ナビに入力した住所は、とんだ田舎町。正直ひよる。この時期は豪雪地帯として有名だ。


 真夜中に出発して高速を走行中の事、案の定足止めを喰らったのだ。





「....すいません、吹雪で視界が。」



 目の前に広がる雪景色は、行く手を阻み、到着を一日遅らせた。


 かなりご機嫌斜めな我らが次期組長さんは、随分とご立腹で苛つきながら、最後の煙草に火を点けた。





 途中休憩を挟んで、コンビニに寄り煙草を買いに行けば、心身共に凍り付くような気温に、思わず身震いをしながら、新箱を手に駆け足で車に戻った。



 





「ここら辺な筈なのですが....。」




 時刻は真夜中、真っ暗闇が続く除雪され出来た壁。その中央の狭い道をゆっくりと進めば、姿を現した古びた一軒家。


 車庫には軽トラ、一階の窓は薄暗く、住人は就寝中だと思われる。




「明朝に出直しますか?」


「いいや、今行く。」



 表札を見れば、女性と同じものを記していた。




 自ら先に降りたった若頭に、続けと俺も外に出てみれば、未だに降り続く粉雪が、着ていたコートを白く染め上げていく。








「―――――夜分遅くに、申し訳ございません。娘さんをお迎えに上がりました。私、織田(おだ)と申します。」





 あの若頭が頭を下げる姿は、この先何度見物出来るのだろうか。それぐらい珍しい光景であった。



 就寝間際だったらしい住人が、恐る恐ると顔を出した。年配の女性だったが、その美貌は間違いなく彼女の母親で間違いないだろう。













「....あら、やだ。あの子ったら、こんなイケメンな彼氏が居たなんて。」



 

 都会の喧騒とは打って変わり、外は静かだ。

 居間に通され、薄らと聞こえてくるテレビの音声。それは聞き慣れぬローカル番組を放映していた。


 半纏を着た女性は、深夜だというのに、態々粗茶を提供してくださった。そして何故か嬉しそうに微笑み若頭の事を見ていた。



「あの子ったら、行き成り帰ってくるものだから、何事かと思えば、痴話喧嘩してただなんて、最初から言ってくれればいいのに....」


「挨拶が遅くなってしまい申し訳ございません。お母さん。」


「あら、やだ。もう~。そういうのはお父さんに結婚のお許しを頂いてからにしてちょうだいね。」


「そうする事にします。」


「あの子、パパっ子でね~........あ、態々来てもらって残念なお知らせなんだけど、あの子同窓会に参加してて、帰って来るか分からないのよ。」






 どうやら入れ違いだったらしく、残念がる男は、「そうでしたか、今夜は遅いので、また明日伺います。」と言い彼女の実家を後にしようと立ち上がった。




「外は極寒なんだから、泊まっていけば?」

 この辺りじゃ寝泊まりする場所は無いでしょ?と彼女の母親は続ける。

「いえ、まだきちんと娘さんにプロポーズも出来ていない手前、正式なご家族では無い赤の他人が泊まる訳にもいきません。」


「きちんとした方なのね~....娘には勿体無いわ。」


「そうですね....。」


 だなんて、冗談半分で笑った男だったが、直ぐに真面目な顔になる。







「でも、私は娘さん以外の人と、どうこうなろうとは考えてないんですよ。」


















・・・若頭と共に、奥様に挨拶して外に出れば、目の前の道路に一台の乗用車が停車している事に気が付いた。



 ヘッドライトに照らされて、降りてきた人物の真黒いシルエットが映し出された。



 一人はへべれけで力なく雪崩そうになる。そしてそれを支えるべくして歩くもう一つの影。


 

「.....なんで、そんなに優しくするのろぉおお。」



 随分と聞き慣れた女性の声は、酔っているのか呂律が回っておらず。咄嗟に隣に居る筈の若頭の方へと振り向いた時には、時既にその後ろ姿が、その二つのシルエットの方へと颯爽と駆け抜けて姿が目に映った。


 雪道に足を沈めながらも走る先には........