トクン....トクン....密着した身体から伝わってくる心臓の鼓動は、速いのか遅いのかよく解らない。
水面の波紋が徐々に静けさを取り戻した時、気が付いた。
「――――なにしてんの。」
「杏のうなじが綺麗だから吸い付いてるだけ。」
”抱く“発言をした癖に、抱きしめて私の首に唇を寄せるだけ。
痕を残す為の強く....とかじゃなくって、くすぐったい様な歯痒い感じ。
―――――調子狂うな....。
どうしてこの男ってやつは、何度蹴落とそうとも、私に向かってくるのか不思議で仕方がないのだ。
逆上せてきて、頭がぼーっとして、眠くなってきた頃だった。
・・・「....駄目ですって、今若頭と姐さんが入浴中でっ!!」
「良いじゃん、ハチが女連れて来てるなんて、絶対嘘だろ?あのハチが....」
脱衣所の方から騒がしく、二人の男の話声が聞こえてきて、手放しかけていた意識を少し取り戻した頃。
――――ガラガラ....。っと何の躊躇も無く隔てる戸を引いた人物に、一瞬にして思考は停止した。
「え、ウソ、マジだったの!?」
「.....。」
現れた人物と対面して、目をパシパシと瞬きを繰り返す。
詠斗とは正反対の真っ白に近い髪の毛、だけどどことなく見た目の雰囲気が背後に居る彼に似ていて....。
「うっせーな。ナナてめぇ殺すぞ。」
地鳴りの様な、低く怒りに満ちた様な詠斗の声が響き渡る。
うなじに吸い付いていた筈の顔は、いつの間にやら肩に顎を乗せて、私の身体を隠す様に腕を回してきつく抱きしめていた。



