童貞を奪った責任




「おーい、伊丹。遂にお前にも春が来たか?」




 会社に出社するや否や、部長が私を見て鼻の下を伸ばしながら冷やかしを入れてきた。


 隠せない程の無数の斑点模様(キスマーク)は、昨晩あの野郎に付けられたものだ。


 
 前回は何とか隠せたけれど、流石に今回は無理だ。





「部長、春はとっくに過ぎましたよ。最早枯れ葉が落ち始めてます。」



 季節は冬目前、早朝の寒気に身震いしてしまう今日この頃。


 そして昨晩無理矢理に交換させられた詠斗の携番。設定は『俺』スマホを奪われて勝手に入力されて、咄嗟に変更しようとすれば....



――――「なんなら彼氏“様”にしとくか?」

 なんて、ふざけた事を抜かすものだから、冷ややかな視線を送り家から追い出した。


 不本意ながら得た俺様若頭の情報と言えば、番号の下四桁が『8888』と言う事だ。



 どんだけ自己愛が強いんだよ!!と、思い出してる時、仕事なのに胸ポケットの中で振動を続けるスマホ。しつこく掛けてきてる相手は当然あの男である。


 面倒くさくなって電源を切った。




 アイツ実は暇人なのかな?と、仕事の邪魔をされて苛々が募ってきた頃だった。




「伊丹さん、お客様がいらっしゃってるんだけど....」


「え、本当ですか?」


 同僚が恐る恐ると言った表情で、声を掛けてきた。それに違和感を抱いたが、渋々立ち上がり身に覚えの無い訪問者の元へと向かった。