若頭が御勤めを終わらせて帰宅したのは、普段の夕飯時よりも、一時間は遅れた頃だった。


 姐さんは、若頭の帰りを待つ間、そわそわと落ち着きが無い。


 この屋敷に越して来てから、滅多に化粧をしなくなった姐さんが、珍しく着飾ってお出迎えする姿は、とても可愛らしくもあり、流石は若頭が見染めた女性だと、その美貌に思わず見惚れてしまう。

 それは、もう二十年以上前に姿を消した組長の奥様を思い出す程に....。


 七海さんと詠斗さんのお母様....。


 彼等二人は、自分の母親の顔すら知らない。あの人は双子を産み落とし、この世界から逃れる様に姿を消した。


 真相の一部を知るのは、昔から仕える組員と、全貌を隠すお父上である六代目。


「ーーーただいま。」


 やっと帰ってきた若頭。少し疲弊した面で、帰宅する。


 姐さんの綺麗な姿にも気付けない位に目は虚ろで、ここ最近の激務に参っているのだろうか。

 組を支え、妻を守る為に、日々頑張る若頭。



「お疲れ様です。」


 荷物を受け取り、挨拶を済ませれば、いつも通りに姐さんの体を抱きしめて、口付けを交わし始めた。


「ちょっ、詠斗!先にご飯食べよ。」

「はいはい。」


 肩を寄せながら、二人並んでる広間の方へと向かう様を背後から見守る。


 さて、若頭....今日は特別な日ですよ?


 貴方の唯一無二が、身体を張って作った夕食。


 見た目はアレですが、味は保証します。





by.天竜