童貞を奪った責任




ーーーーー「へぇ〜。じゃあ天竜さんは、詠斗のお祖父ちゃんに認められて、ここで働く事になったんだ〜。」


 時は流れて、今俺は姐さんと共に台所に立っている。


「姐さん、そんな支え方だと指を切っちまいますよ。」

「あ、ごめんなさい。私ってば本当に料理初心者なのよね。」


 見るからに不器用そうな手つきで包丁を握る姐さんに対し、内心冷や冷やしながら見守る。

 今日は若頭の誕生日だ。二人が結婚してから初の祝い事。


 姐さんが俺に頼み込んできたのは、若頭の為に料理を振る舞いたいとのことである。


 今まで俺が料理番をしてきたものだから、若頭は愛妻飯とやらを食べた事が無いのだ。


「天竜さん見て見て‼︎これで合ってる?」

「はいっ。大丈夫です。」


 野菜を切ってる姐さんは、俺に確認を取るが、その歪な形に苦笑いを浮かべながらも、真剣に取り組む彼女の手助け出来る事を光栄に思う。



「詠斗の御袋の味が、天竜さんなんだもんね〜。」

「まあそうなりますね。俺は五代目、六代目、そして今の若頭に七海さんまでも....。」

「毎日天竜さんの御飯食べれる私も幸せ者ですよ。もしも、天竜さんのご実家のお店がまだ残ってたら行きたかったな〜。」

「自分も、親父の味が恋しいっすわ。」



 もしも、生きてたら食べたかったな。と感傷に浸る。


 今や亡くなってしまった俺の味の大本である偉大な人物。


 それを受け継ぐのは、姐さんであってほしい....



「っっぃったぁぁあああ‼︎」


「ちょっ、姐さん大丈夫ですか⁉︎」


 油断したのか、指を切った姐さんは、その場で悶絶し始めて、俺は大慌てで蛇口を捻ると、彼女の腕を掴んで水へと晒した。