「おめぇんとこの店の味は、俺は好きだったぜ?」
「はあ、それはどうも有難う御座います。」
「おめぇは、あの親父の店を継ぐ予定だったんだよな?」
「はい....一応は、」
ずっと俺は、料理一筋で生きてきた。
将来店を継いだら、いつか結婚する嫁さんと切り盛りする夢まで見るほどだ。
まあ、そんな店も今じゃ売りに出されてしまい夢は夢で終わってしまった。
専門学校も中退し、これから何をしていけばいいのやら....。
目の前が真っ暗闇になり、絶望的な状況。
今夜の食い扶持に、寝床の確保。
親父に貰った立派な包丁だけが俺の手元にある唯一の荷物。
「お前が、あの店の味を出せるっつーなら、ここに置いてやる。」
「.....えっ?」
「聞こえなかったのか?今晩の料理番になれ、
もしも、美味いって言わせる事が出来たなら、お前の就職先はここに決定だ。」
組長さんは、ガハハと愉快そうに笑い声をあげた。



