五月某日、雲一つない晴天が、この日の為に姿を現した。

 昨日までの天気予報は曇り時々雨。折角の晴れ舞台が台無しじゃないかと、気分が落ち込んでいたが、なんと奇跡は起きてしまった。





「アハハ~。やっぱ俺ってば超晴れ男っ。」

 白いタキシードに身を包んだ生粋の王子様は、鼻高々に自慢げである。



「はいはい。流石は晴れ男。雨女の私よりも最強ね。」
 
「花ちゃんが出掛けると大抵雨降るよね~。」

「五月蠅いな、私だって好きで雨女してる訳じゃないし。」

「まあ俺と一緒に居れば、脱雨女ですよ。」


 純白のドレスに身を包み、チャペルへと向かう道中を旦那と腕を組んで歩く、扉一枚隔てた先には、厳選して招待した客が待っている。


 行き交う式場スタッフさんが、みー君の王子様っぷりに頬を染め、足止めを喰らっている最中、当の本人の視界には私だけが映っていた。

「やばいっ緊張してきた。やっぱ私には無理っ!!」


 式の開始はもう目と鼻の先、この日の為に奮発した脱毛と高級エステ。掛かった時間とお金は惜しいが、この場から逃げてしまいたくなった。

 組んだ腕を振り解いて、来た道へと引き返そうとすれば、それを許さない旦那様が、ケラケラ笑いながら私の行く手を阻む。


「花ちゃんってば、折角綺麗にめかし込んでるんだから、御披露目しなきゃ損だよ?」

「こんな不細工が、いくらプロの化粧とドレスで着飾ったって、ブスには変わりないわよ!!」

「何言ってんの?花ちゃんがブスな訳ないじゃん。」

「ちょっ、ちょっとっ!!」

 
 強引に腕を引かれて、扉の前に辿り着けば、突如開いた入口。

 気持ちが整理が整っていないのに、行き成り目の前に現れる沢山の視線。

 腕を解かれて、起立するみー君を盗み見れば、真面目そのもの....。


 さっきまでのヘラヘラ男は何処へ行った!?




 真っ赤な絨毯の一直線の道筋の先には、神父さんが待ち構えている。





「....先に行ってるよ?」


 彼の背中がどんどん遠退き、私は一人その場に残される。

 そして直ぐに、スーツ姿のお父さんが私を迎えにくると....


「とっても綺麗だよ。おめでとう。」

 
 血の繋がりも無い私を受け入れて、愛してくれた男性。

 今では皺くちゃになった肌。だけど昔と変わらず、柔らかくて優しい雰囲気を出すお父さん。

 その手を取ると、送り届けられる先には、最高にかっこよくて私にだけ甘い旦那様の姿が在り、私の到着を待っていた。


 お父さんとの別れを惜しんでいると、みー君がお父さんに深々と頭を下げた。


 着席したお父さんの瞳には涙が溢れて、今にも零れ落ちそうになっている。


 横のお母さんがハンカチを手渡すと、遂に涙腺が崩壊し大号泣してしまったのだった。