そして、一条退社騒ぎが白紙に戻ると、奥様....花さんが、何度も非礼を詫びてきた。
「気にしないでください。私の方が旦那さんの方に、大変失礼な真似をしてしまったのですから!!」
「いえ、そうですがっ!!でも、私もついカッとなって、社長さんに掴みかかろうしてしまいましたし....。」
すみません、すみません。と頭を下げ続ける花さんに申し訳なくなってきた。
事の発端を引き起こしたのは、間違いなく私だ。私の我儘で旦那を揺さぶって、大変不愉快な気持ちにさせてしまっただろう。
だから、「これからも末永く、宜しくお願いしますね。」
彼、一条 美郷を他社から引き抜いたのは、私だった。若くて優秀な人材が居るのだと聞きつけた私は、彼を口説きまくって引き込んだ。
容姿端麗、頭脳明晰、どんな仕事も卒無く熟す一条は、愛想が良くて、瞬く間に我が社の看板的存在になった。
一条のお蔭で業績は右肩上がり、広告塔になったビジュアルのお蔭で、入社希望数は増加。
そして膨れ上がった倍率の為、採用基準を上げれば、優秀な人材が集まる事となった。
今まで様々な人材を雇ってきたが、彼以上の存在が現れた事は一度も無い。
そしてそれがこの先、出て来るのかも危ういだろう。
「花さんが居て、今の一条君が在るんだと思いました。本当に有り難う。」
誰もが彼に憧れを抱き、信頼して付いていく。来る者拒まずだが、去る者へも気を掛ける慈悲深さ。
そんな彼を育て上げたのは、間違いなく貴女ですよ。
社長室を去った一条夫婦は、エレベーターに乗り込むと、揃って安堵の息を吐いた。
「もう、なんで来たんですか、花ちゃん。」
「....だって、心配だったし。何より、ムカついてたしっ!!」
ぷくっと頬を膨らませた花。
そして、そんな花を横から見下ろして愛おしく思う美郷。
「そうかいそうかい。でも、さっきの輩花ちゃんは、是非とも動画に収めたかったな~。」
「あっ、あれは咄嗟に....ってか、さっき社長さんのデスクに散乱してた写真はいったい何!?」
赤ん坊花ちゃん、幼稚園児花ちゃん、小学校へ入学した花ちゃん、そして俺とツーショットの花ちゃん。
それは彼女の尊い成長の記録。
「素っ裸の赤ん坊の写真なんてどこで手に入れたのよ!!」
(あんたまさか....実家で盗んできたわね!?)



