私が小学六年生頃、二条 花という名前に変わった。
私が生まれて直ぐに、両親が離婚し、お母さんに引き取られた。
それからお母さんは、子育てと仕事の両立で忙しい日々を送っていたと思う。
学校が終われば直ぐに帰宅し、掃除に洗濯。お母さんは、夕方仕事から帰ってくるから、それまでに夕飯の支度を済ませる日々。
片親で子一人。私達はそれぞれの役割を担っていた。
私を育てる為に一生懸命に働く母の為、家事全般は殆ど出来る様になった。
だがしかしその一方で失ったものは、友達と遊んだりが出来ず、周りの会話についていけなくなったのだ。
贅沢など、決して望んではならない。クラス内での流行りの文房具、ブランド物の洋服。
休み時間には、真新しい私物の披露会が繰り広げられる。放課後には、帰路の途中で営む駄菓子屋に集合。その後は、近くの公園で鬼ごっこ。
初めこそは、遊びに誘ってもらえていたが、何度も断りを入れれば、誘われるは愚か、話しかけられもしなくなった。
普通の家庭で育った私以外の皆が羨ましかった。
そして、小学四年生頃になると、休日にだけ優しい小父さんが遊びに来ていた。
お母さんと親しげな小父さんは、我が家に訪れる度に、私に美味しいお菓子と、ぬいぐるみやおもちゃをくれた。
普段は欲する事を我慢し、いつしか欲しいとも願わなくなった頃、小父さんから与えられる数々のプレゼントが部屋中に溢れてくる。
要らないと思い込んでいた物も、貰えば情が湧くのだ。
嗚呼、やっぱり私も欲しかったんだ。と気付かされる。
お母さんが一人で近くのスーパーへと買い物に出かけた際、小父さんと二人きりになった私は、こんな事を言われた。
『花ちゃんのお父さんになってもいいかな?』
それは頷く他なかった。
学校から帰ったら、一人ぼっちでお母さんの帰りを待つ事が無くなるのだと....。
もう寂しい想いをするのは嫌だった。
泣きじゃくりながら頷いた私を優しく抱きしめてくれた小父さんは、後日本当の家族になり、私の苗字が二条へと変わる。
そして私達家族は、狭いアパートから広い一軒屋へと引っ越す事になったのだった。
でも、それは生まれ育った町からは遠く離れた場所。お父さんのお仕事の関係で、転校は余儀なくされた。
そして私は心機一転、新しい環境へと飛び込む事になったのだったが....。
ずっと交友関係を避けてきた為か、同世代であろうとも、人とどう接していいのか分からなくなってしまった。



