究極の片想い時代は、甘酸っぱい。

 そして君を手に入れた後は、兎に角只管(・・・・・)甘い。

 沢山甘やかしてあげたい。それが俺の欲である。


 “Hana is my life."


 揺るぎない君への想い。愛は地球を救う。花は俺を救う。

 


 昔、アイドル全盛期に、気に入ったアイドルを応援する“推しメン”とやらが流行っていた。

 俺から見れば、似たり寄ったりな芸能人に恋をして、ファンサの為に貢ぐ友人等を見た俺は、それが自分が花に対してしている事と似ている事に気付く。


 “一生花推し”

 “俺の嫁”

 お手製の団扇を煽り、オリジナルシャツを着た俺の姿が思い浮かぶ。
 
 
 アイドルを追いかけ続けた奴等の末路は、推しが引退して、悲しみに暮れている最中での追い打ちの結婚報道。

 
 
 俺の場合、花を追いかけ続け、そして遂に....花を手に入れる事が出来たのだ。


 それから俺の中では、“嫁しか勝たん”、“花 命”。


(俺は花を一生大切にする....。これが生きる糧となっていた。)
 




 

 悲しげに、しゅんとした旦那を見送った花は、玄関の鍵を施錠すると、その場に立ち止まってしまった。

 付き合い立ての頃、美郷がお揃いで着たい!と買ってきたパジャマは、趣向を凝らす可愛らしいペアルックの物だった。

それを今まさに着ていた花は、今も尚肌触りの良い生地を握り締めて想う。

 自分にはこんなの似合う筈がないのに、だけど....こんな私の事をずっと「可愛い」と言い続けてくれた美郷。

 彼の周りには、私よりも数百倍可愛いくて綺麗な子が沢山居たのに....。

 彼が私を気に掛ければ掛ける程、周囲からの重圧感は、酷く恐ろしいものだった。

(なんで、あんなブスに....)
 
 その矛先が、別の誰かに向いてくれればいいのに....。そんな事を何度も思った。

 身丈に合った人と恋愛をして、質素ながらも家庭を築き、幸せを噛み締めて生涯を終える。

 そんな人生を歩むのだと、信じて疑わなかった。


『花ちゃん....花ちゃん....。』


 大勢居る私よりも一条 美郷に“相応しい女”を振ってまで、私にだけにくれた「好きだよ。」の言葉。

 あの一条 美郷が、私にだけくれるとびっきり甘い言葉の数々。

 無難で地味な大嫌いの自分の名前を呼ばれる事が、嬉しくて心地良く感じたのは、いったいいつからだったのか....。