振り返った彼は長いまつ毛を何度か瞬かせ、私の顔を凝視する。
「ほ、本当にいいんですか、あんな高価なもの」
「ああ、時計には興味がない」
さらりと言いのけた彼は、スラックスのポケットから紺のハンカチを取り出すや否や、私に向かって突き出した。
「……え?」
目力に負けてハンカチを受け取った瞬間、彼は再び踵を返し颯爽と歩いていってしまう。
自分でも気づかなかったけれど、頬に涙が伝っていたようだ。
泣き顔を見られた恥ずかしさで顔を熱くしていると、近くにいたクルーたちのキャーッという黄色い声に心臓が跳ね上がった。
「五十嵐さんの今の行動何よぉーーー!!」
(五十嵐さん、騒ぎを大きくしないようにさっきとんでもない時計をお客様に渡しちゃった)
罪悪感が込み上げドクドクと心臓が大きくなり始める。
頭の中で目の前で起きた出来事を整理していると、副操縦士の伊織さんが焦った表情で私の顔を覗き込んできた。
「駆があんなことするなんて驚いたな。村瀬さん大丈……」
「いいい、伊織さん! キャプテンの部屋番号はご存じですか!?」
「え?」
半笑いの伊織さんの肩を揺さぶりながら、思い切って顔を近づける。
頭の中は『謝罪』ーーその言葉で埋め尽くされていた。
(五十嵐さんと一度ちゃんとお話ししないと)

