好きよりも、キスをして



「なんでもないから。忘れて」

「そ、そう?あ、そう言えば。

沼田くんの防犯ブザー、緋色に渡しちゃったでしょ?だから返すね。どれでもいいから、取ってほしいな」



重くなった私の鞄。そりゃそうだ。ジャラジャラと、キーホルダーみたいに防犯ブザーがついてるんだから。

沼田くんも少し引いたらしく、「自分でお気に入りのを買うから遠慮させて」と控えめに断られた。



「そうなの?分かった。でも、もし必要だったら、いつでも言ってね」

「う、うん……」



トントン



その時、背後から肩を叩かれる。振り返ると、そこにいたのは緋色だった。

昨日まで、ここにいた緋色とは違う。顔色もよくて、何かから解放されたような清々しい表情。もちろん、仮面は存在しない。ありのままの緋色だ。



「緋色!おかえり」

「(ただいま、朱音。昨日はどうも、沼田)」

「昨日はありがとう沼田くん、だって」

「え、口パクで分かんの?ウザ」

「(俺もウザいって返して、朱音)」

「いや、それはちょっと……」