修羅場



「…ケン!しっかりして―ー‼」

「ケン…、おい、大丈夫か‼一体、どうしたってんだ…⁉」

ツグミと桜木は、この後、どういう事態が起こるかは頭に浮かんだはずだった。
しかし二人は、条件反射的にケンの体を抱き寄せていた。
夢中で。

何を先於いてもという気持ちが勝ったのだ、ここでは、まずもっては…。
そして、二人はたどたどしい共同作業で、ケンを縛り付けている血のりの点在したロープをほどいていたのだが…。


***


ロープからケンを開放すると…。 

「うっ、うぐっ…」

ケンは確かに生きていた!
ツグミと正樹は顔を見合わせ安堵の表情を交わし合った。

しかし、次の瞬間には、二人から約2M後ろの掃き出し窓から衝撃音が飛び込む。
荒々しいガラスの破片ともに…!

”バリーン、ガシャーン…‼”

二人がそこへ振り向き返るとその眼前には、窓ガラスをスパナで叩き割って乱入して来たツグミの実姉、氷子がに仁王立ちしていたのだ!
その両眼から濁り切った眩い閃光を放って…。

ケンの体にぴたっと寄り添っていた桜木とツグミは、恐ろしい形相の氷子に及び腰になりながらも、必死で身構えていた。
それは条件反射のように…。


***


「ウォー!テメーの弟、私の妹を無理やり犯しといて、私ともしっかりデキてイッぞ!こんなイカレ女と一緒に昇天だよ‼キャハハハ…‼とどめはお前らの前でやってやる‼ツグミ…、いくぞー!」

氷子は服の内ポケットから登山ナイフを手にすると、3人のカタマリに向かって突進していった。
いや、二人だった…⁉

ツグミは素早くキッチンにワープしたかのように、瞬時、そこから逃避?していたのだ!

そして…‼
あらかじめ収納場所をチェックしていた包丁を握ると桜木に向かって叫んだ。

「おじさんー!これで、殺っちゃって‼」

ツグミは手早く包丁を床に這わせて放り、しりもちをついてワナワナ状態の桜木兄へと正確に納めた…。
それを瞬時に察知、足元に届いた包丁を拾う桜木も、ここに来て素早かった。
気が付くと、桜木兄は真正面からと突進してくる氷子を真っ向から、その一身を以って立ちはだかった。

”うぉーー!!”

”わわわー!!”

それは…、まさに瞬きする間の出来事であった…


***


錯綜する極大級な絶叫のあと…。

桜木兄と氷子は互いの体に包丁を刺し合い、真正面に向き合って立ちすくんでいたのだ!
傍から見れば、抱き合っているようにしか見えない。

夕闇に照らされた大量のどす黒い血しぶきに染められた二人は、その状態のまま、ドスの利いたうめき声をあげながら全身を痙攣させていた。

二人の足元では桜木ケンが、うつろな目でその壮絶な一部始終を目撃させられていた。
一方の氷子の妹ツグミはというと…。
キッチンの隅っこで丸まって、口を両手でふさぎ、ただただ、今目の前を占拠してる姉と桜木兄のどちらが”勝ったか”を息を呑み、見守っていたのだ…