愛されたい私



「…ああ、そうだ。キミに頼まれた損害賠償額をできるだけ多くって件、弁護士には伝えといたよ。まあ、今まで相手が相手だから、金額には固執しないで早期に示談してくれって言ってたんで、怪訝そうだったけどな。はは…」

「おじさん…、ゴメンナサイ。私が無理言ったんで、弁護士の先生と仲悪くさせちゃって…」

私は両手で顔を塞ぎ、嗚咽をこらえていた

だって!

この人、他人なのに私のこと家族みたいに優しく気を使ってくれてるんだもん

それ、仮に同情からだとしても、自分へ跳ね返ってくるリスクを承知でってことになるし!

実際、これからヘタすると氷子姉ちゃんに命取られるよ、この人

さすがにちょっと鈍なおじさんでも、その自覚はアリだよ

なので、ありがとう…

私はそんなおじさん、好きだから

だから、私のこと、かわいそうだと思ったら家族のように愛してね


***


ついに7時40分になった…

結局、ケンのケータイからは着信もラインの既読も返信もなかった

ここで、ケンのお兄さんは右手に指で腕時計をぎゅっと握り凝視した後、私に向かって、こう切り出したわ

「じゃあ、110番する。いいね?」

「ええ…」

ビングのソファにちょこんと座って膝を両手で抱えながら、私は神妙な面持ちでそう言って頷いてね

私的には、お姉ちゃんが今時点でえケンを殺めてるってことはないと確信できていた

でも、あの人のことだ

ケンを暴行したり、強制的に性交渉を強いたりは多分してる…

なら、警察沙汰になってでも、ケンを救わなきゃ!

なぜなら、桜木ケンはお姉ちゃんじゃなく、私を大切にしてくれてるから


***



「…警察、こっちへ来れないかって言ってたが、事情を繰り返し話したら、まあしょうがないかなって感じだったけど、ここへ向かってくれるらしい」

否応にも緊迫の度が増した空気を、私とおじさんはひしひしと感じていた

だから、もうすぐ警察が来てくれる…

そんな安心感で私たちは大きく肩で息をしあってね

そしたら、急におしっこがしたくなっちゃった…


***


「おじさん、今の話聞いたら急にホッとしちゃって…。トイレお借り出来ますか?」

「ああ、そこの奥だから…。行っトイレ~」

やだー、こんな時にオヤジギャクなんて

きっと、私の気を和らげようって思いから無理してるんだ

でも私は無性におかしくて、思わず笑顔で「行ってきまんじゅう~」って手を振った

したら…、おじさんは両眼にしわ寄せてハハハ…、ってね

「…まあ、その間に紅茶でも入れとくよ」

うれし~


***


私は1階の階段脇にあるトイレに入ったんだけど!

そこの壁4面には、ラミった写真が一枚づつ張ってあったんだよね

写ってるのは、ケンとお兄さんともう一匹…

それ、たぶんハムスターだ

もう、この4枚でそれが何を物語ってるか、手に取るようだったよ

その4枚…

1,我が家にハムスターがきた!
2,ハムちゃんの飼育開始!おいしそうに餌を頬張るハム!
3,我が家のハム世話係はケン!庭で飼育しかごの清掃に汗だくなケン!
4,我が家に来てちょうど1年…、ハム逝去。庭には墓を作って手を合わせるケン…

写真には何の説明もコメントプリントもない

でも、私はすんなりこの背景説明フレーズが浮かんできた

パンツを下げ、便器に座りながら

で…、オシッコしながら、両の眼からも下とは違うミズをだらだら垂らしてた


***


これこそ、フツーな家族でしょ!

んなのに…!

私だって、小5ん時にハムスター飼いたいって、我が家の世帯主に言上したよ!

あの狂ったオンナに!

したら、アイツ、こう言ったんだ

「ハムスター?ああ、別にいいけど!でもよー、このネズミとリスの中間な動物、かごの中で輪っかをカシャカシャ夜中でもケリ回すんだろう?私、ぶっ殺すわ、確実に。うっせーし!そうだねー、きっと、フォークでずぶずぶって何度も刺すわ。それでもいいんなら、押し入れから金、持ってきな。十匹でも百匹でも買っていいぞ。それ、全部フォークでぶっ殺すから。アハハハ…、』

狂ってる!

あの人は人間じゃない…

でも、実のお姉ちゃんだから…

私はあの女と一緒に住んでる限り、ペットも飼えないんだって

やっぱ、今日は決着をつけなきゃ!

うふふ…、私には私を家族みたいに愛してくれる二人のオトコがいるんだもの

できるよ…

私は頬に辿った涙を拭わず、用を足したあとのお尻を拭いながら、ニヤケ顔でコレ、誓ったよ