そんな汚い考えを一瞬で吹き飛ばされることになるなんて、予想もしてなかった。


『あ、ごめんね! 通りかかっただけなんだけど、喧嘩だったらやばいかもって、中に入ってきちゃって。違くてよかったよ〜』


普段のおれとは明らかに違う姿を見たくせに、いまいち動揺する様子もなく。



『……あんた、驚かないの?』

『いや驚いたよ! 天沢くんってああいうドスのきいた大きな声も出せるんだね〜』

『はあ、そこ?』

『うちのお姉ちゃんも、生理前に情緒が不安定でよくああやって暴れてるんだよね! 人間って情緒保つの大変だろうし、たまには発散していいと思うよ!』


嫌味もなく、笑顔でそんなことを言われて。

自分も人間のくせに達観してるのもおかしかったし、
しかも生理前のおねーちゃんに重ねられて、意味わかんねー、なんだこいつ、と思ったけど。



『あはははっ、あんたやばいね』


気づいたら声を出して笑ってた。
あんなの初めてだった。



───加藤 杏実。

あの子のために家を捨てたいと、何度思ったかわからないくらい……世界で1番大事な女の子。