半開きになって通路を塞いでいた非常階段の扉を、思いきり蹴り飛ばした。



「雪様。ここはまだ学校です。放課後で人が疎らとはいえ、どこで誰が見ているかわかりません」


うるさい。

周りにどう思われようがもうどうだっていい。

まともな人間ぶったところで、もう杏実は戻ってこない。



生まれたときからおれは欠陥品だった。

他人を信じる力がなくて世の中のもの全てが敵に見えた。そのくせ他人から好かれることでしか自分の価値を見いだせなかった。

おれみたいな人間は、天沢家の長男として生まれてくるべきじゃなかった。


おれにとって数少ない大事なものを、大事にしたいのに……それらに限っていつもみんな遠くへ行ってしまう。


どうせこうなるならいっそ……

いっそ───



「杏実の家に車を回せ……。帰り着いたところを捕らえておれの部屋に連れて来い」

「……加藤様をどうなさるおつもりですか」

「……お前に関係ないだろ」

「いいえ」

「いいえ、じゃねーよ! 使用人のくせにごちゃごちゃうるせぇ……」


──自分の声が不自然に途切れた。